ひびろぐ

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

汗かくことを嫌って忘れて。

めっきり寒くなった。 特に朝。 ほんの少し前までぬるかった顔を洗うための水道水が、やたらと冷たくて痛い。 服を着替える。 一枚余計に羽織る。 寒いのは嫌だけど汗はかきたくないから、いつでも脱げるものをチョイス。 なんだか卑怯ね。 違うよ。 賢くな…

つれない扱いと雨に耐えるだけ。

大きな傘はいいね。 ふたりして入れるし、ひとりなら絶対濡れないし。 小さな傘もいいね。 持ち運びに便利でしょ。 ひとりだけなら傘として役割をちゃんと果たしているし。 中くらいの傘が言う。 ふたりはいいね。特長があって。 私なんかすべて中途半端。 …

昼は眩しいし夜は外から見えるから。

フウカは窓を開ける。 心地良い風が入ってくる。 カーテンがふわりと膨らんで、フウカの視界を遮った。 淀んだ部屋の空気が生まれ変わる。 新鮮な風に乗って。 心地良い風ばかりではないけれど。 からだを包み込む生温い風も。 からだを突き刺す冷たい風も。…

香りは移ろい変わっていく。

ああ、焼肉食べたいな。 ミサは言う。 食べたいな。 ジュンも言う。 にんにくたっぷり入れて。 ミサは笑う。 いいね。 ジュンも笑う。 明日は休みだし。 いいね。 信じられないほど、入れたい。 肉の味がしなくなるほど? そう。めちゃくちゃ臭くなるほど。 …

見えないものと見えすぎるもの。

なんだかいろんなものが見えづらくなって。 なんだかいろんなものにピントが合わなくて。 日常生活に支障をきたすので、眼鏡屋さんへと向かった。 視力検査をしてもらうと、相当視力が落ちていた。 そりゃ、見えづらくもなるよ。 日に日に、見えづらくなって…

塩強めの塩おにぎりが一番好き。

味つけが濃すぎるとからだに悪いわよ。 君は眉間にしわを寄せる。 こっちのほうがおいしいから。 ぼくがそう言うと、君はすぐに目を逸らす。 いくつも調味料を並べているわけではない。 そんなときもあるけれど、基本的には調味料ひとつ。 それでもかけ過ぎ…

食べたくなるものは大体決まっている。

見て。新商品だって。 ミオはファミレスのまわりで揺れる、のぼりを指差す。 本当だ。季節ものだな。 レイジはのぼりの文字を口に出さずに読む。 おいしそう。 野菜好きのミオは、のぼりに描かれた写真を見つめる。 そう? 野菜嫌いのレイジは、のぼりからす…

帰ってお風呂入って眠るだけ。

疲れた。 今日は疲れた。 特別忙しかったわけではないのに。 今日はやたらと疲れた。 帰ってお風呂入って眠るのがギリギリ。 夕食を作る気力も体力もない。 そんな日は。 行きつけのお店で食事をすませる。 行きつけのお店は家のすぐそこ。 歩いていけるから…

人のからだの大半は水だと聞いているのに。

潤いをください。 人差し指に息を吹きかける。 「う」の形ではなく「あ」の形で。 ふー、ではなく、はー、と。 乾かすのではなく、潤いを与えるように。 だって乾燥しすぎて反応しないから。 注文用のタッチパネル。 反応しないから。 生ビールを頼めない。 …

白黒はっきりつけなくてもいい。

大人になるということ。 年齢じゃなく、他のこと。 大人になるということ。 誰かのためじゃなく、自分のために。 自分に嘘ついてまで、大人になりたいなんて思わない。 それでも、いつか勝手に大人になるもんだと思っていた。 年齢だけでいけば、そうなんだ…

赤色は大人の色。

コツコツコツ。 あなたはヒールの高い靴を履いて歩いている。 しかもピンヒール。 見ているこっちがドキドキしちゃう。 足をひねらないか。 こけないか。 捻挫しないか。 君はふらつくことなく、真っ直ぐ歩く。 コツコツコツ。 君の足音が響く。 一定のリズ…

見えているものは真実のごく一部。

この世にあなただけのものなんてない。 買ったものでも。 貰ったものでも。 注文したものでも。 座った席でも。 住んでいるところも、食べているものも、着ているものも。 あなたのものかもしれないけれど、あなただけのものではない。 思ったことも、感じる…

違った美味しさがそこにはある。

ピザって美味しいよね。 出来立てはもちろん、冷めたピザをレンジで温め直しても美味しいよね。 同じピザでも少し違った味を楽しめる。 たくさん頼みすぎちゃって。 余ったとしても、また次の日に食べられる。 あなたもそうでしょ? ふたりして頼み過ぎちゃ…

昔ながらの王道ど真ん中。

餃子を食べたい。 がっつりした餃子。 匂いがしないとか、女性でも気にせずとか。 そういうのではなく、がっつりした餃子。 あなたは気にするかしら。 餃子の匂いをさせた私を。 あなたは嫌かしら。 餃子の匂いをさせた私とキスするのが。 でもよく考えてみ…

タイプは違えど私のタイプ。

タレ派? リノはメニューを開いてケンに言う。 うん?まあ。 ケンは嫌な流れを感じる。 やっぱり焼き鳥には塩でしょ! リノはケンが注文したものと同じものを、塩で注文する。 塩で食う奴はみんなそう言うんだ。塩で食べるのが通、みたいな。塩で食べる方が…

2択がいちばん迷いがち。

世の中に2択はいろいろある。 好きなものは最初に食べるか最後に食べるか。 ありがちな2択。 言われがちな2択。 なぜ、その2択? 最初か最後にしか食べられない状況になんて、ほとんど出会わないのに。 まあ、いいか。 じゃあ、好きなものがエビフライだとし…

隠れ家的な、という大人の香り。

久しぶりに会ったヒロキとケンゴ。 居酒屋のテーブルで向き合う。 「本当に久しぶりだな」 「もう、何年になる?」 「楽しかったな、あの頃は」 「そうだな」 何年ぶりかに会うのに、ふたりの距離感はあの頃のまま。 いつもふたりで一緒にいた、あの頃の話で…

甘ければ甘いほど素敵。

甘いものが好き。 甘いものばかり食べて、とよく言われる。 それでもやめられない。 心が癒されるから。 まわりに何と言われようとも、甘いものには癒される。 そんなに甘いものばかり食べているから、甘っちょろいことばかり言うんだ。 誰かにそう言われた…

新たな季節が来るたび服が増える。

毎日服を選ぶのが面倒くさい。 なのに、服は増えていく一方。 流行という名の圧力に負けて。 おしゃれという魔物に喰われて。 本当は興味ないくせに。 私は見栄を張る。 誰のためにやっているのか。 きっと誰かのため。 私のためでは決してない。 だって私の…

誰にだって秘密はある。

誰にだって秘密がある。 マイはエコバッグを片手に商店街へと向かう。 人通りが多く、活気のある商店街。 あちこちからいい匂いが漂ってくる。 「奥さん、奥さん」 魚屋の店主が大きな声でマイを呼ぶ。 「こんにちは」 マイはお辞儀をしながら近づく。 「今…

好きな洋服を着たいだけ。

私は人形。 自分で好きな洋服を選ぶことができない。 自分の意思で動いてはいけない。 自分の力で動いてはいけない。 いつも洋服を着せられる。 私ではない誰かに。 着たくもない洋服を。 私にだって好みはある。 でも私には選べない。 私じゃない誰かが悩ん…

どこに行ってもそこそこ気になる。

この扉の向こうは、どうなっているのだろう。 この扉の向こうには、どんな人がいるのだろう。 こんなに目の前にあるのに。 一歩踏み出せば届くのに。 私にはこの扉を開けることができない。 ただ見ているだけ。 開けたらどんな風になっているのか、想像する…

鍵の数だけ守りたいものがある。

貴一は鍵をたくさん持っている。 そして、肌身離さず持っている。 鍵の束をベルトループにつけて、ジャラジャラジャラジャラ。 貴一が歩けば、ジャラジャラジャラジャラ、音がする。 すれ違う人々は誰もが音のする方に視線をやり、誰もが貴一のうしろ姿を見…

引っ越し先の決め方。

引っ越ししよう。 そう決めた。 どこにしよう。 どこへ行こう。 近くても遠くても。 ここじゃなければ、それでいい。 桜が咲くところ。 海が香るところ。 紅葉が乱れるところ。 雪に囲まれるところ。 ここじゃなければ、それでいい。 私の居場所はここではな…

入口と出口は別々。

居酒屋で知人と食事をする。 隣の座敷から声が聞こえる。 それぞれ個室になっているため、顔は見えない。 男性と女性の声。 声から察するに、若いカップルか。 男性はきっと社会人。 彼なりの仕事論を延々と話している。 そこまではっきりとは聞き取れないが…

履き違えたときは履き直せばいい。

ジンクスなんていらない。 あっても邪魔なだけ。 増えれば増えるほど、どんどん窮屈になる。 だからなくした。 ジンクスなんてなくした。 でも、ひとつだけやってしまうことがある。 靴を右から履く。 これが、唯一の、ジンクス。 ジンクスというよりルーテ…

瞬きするたび過去が増える。

ずっとあった焼き肉屋が潰れた。 文字通り跡形もなく潰され、更地になっていた。 大きな建物だったのに、なくなるのは一瞬だ。 大きな建物だったから、なくなったら見晴らしがやたらと良い。 何度か行った焼き肉屋。 あの人と行った焼き肉屋。 あれとこれが…

差別をしないと思うことがすでに差別。

昼食をいただく。 ランチ時のお店は人がいっぱいで忙しそうだ。 隣の席には小さな女の子とおかあさんが座っている。 「好き嫌いしちゃダメよ」 おかあさんが女の子に言う。 女の子はグリンピースだけを取り分けていた。 チャーハンに紛れたグリンピースだけ…

マスクは防寒着。

風邪ひいたの? 知人が私に言う。 いや、予防のため。風邪ひいたの? 私はこもった声で知人に言う。 うん、風邪ひいたの。 マスクから漏れる知人の声はとても小さく、辛そうだ。 大変だね、お大事に。 私はマスク越しにそう言うと、知人と別れた。 マスクを…

直感も大切だけどよく考えることも大切。

私はいつもポケットがパンパン。 ビビりだから、あれもこれもと、ポケットに入れて出かけてしまう。 出かけた先では、あれも良いこれも良いと、直感でポケットに入れてしまう。 いつもポケットがパンパンでかっこ悪いから、小さなカバンを持つことにした。 …