物語ブログ【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

理想の隣に不満が住んでいる。

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何かを得たら、何かを失う。

 

よく言われることだけど、失くしたものには意外と気付かないもの。

得たものばかりに気を取られて、失くしたものを忘れてしまうから。

 

ちょっと遠出しよう、と珍しくあなたが言う。

付き合った最初のころはよく一緒に出掛けていたのに。

最近はすっかり出不精。

 

デートはもちろんショッピングもしてないから、最近出来たアウトレットに向かうことに。

冬物買うにはちょっと遅いけど、まだまだ寒い日は続くから。

 

どれくらい時間がかかるのか。

今はカーナビがあるからすぐにわかる。

 

1時間半くらい。

 

まあドライブには丁度いいかも。

ドライブがてらショッピングして飯を食おう。

 

久しぶりのデートに柄もなくワクワクしている私がいる。

 

道に迷ったらどうしよう。

今はカーナビがあるから心配ない。

あなたにかっこ悪いところを見せる心配もない。

 

安心してゆっくりドライブしよう。

家の中とは違う密室。

普段しない話をしながら進もう。

 

そう思っていたのに。

 

あなたは車を走らせて早々に眠ってしまった。

なにやら夜更かししていたせいだ。

明日は早いから早く寝なよ、と言ったのに。

 

何時に寝たの?

私は先に眠ったからわからない。

無理矢理起こして、あなたはまだすっぴんのまま。

車の中でメイクするって言ってたのに。

 

確かに安心できるよ。

カーナビがあるんだから。

方向音痴の私だって、カーナビの指示通り進めばいいだけだから。

 

でも思ってたのと違う。

 

目的地に着いてからがデートじゃない。

目的地に向かったときからデートははじまっている。

なんなら、デートするって決まったときから。

 

カーナビがなかったらこんなことにはならなかったのだろう。

カーナビがなかったら助手席に座るあなたが地図を広げて、このまま当分真っ直ぐ、だとか、次の信号を右、だとか、次の次の出口で高速降りて、だとか言うんだ。

 

運転するのは私だけど、ふたり力を合わせて目的地へと向かう。

時折ケンカもしながら、それでも力を合わせて向かうんだ。

 

カーナビは便利だ。

カーナビがあって助かる。

文明のおかげで方向音痴の私も安心していろんなところへ向かえる。

 

得たものがあれば失ったものもある。

すべてが等価交換ではない。

得たもののほうが大きいときもあれば、失うもののほうが大きいときもある。

 

得たものが大きすぎると、失ったものを忘れてしまう。

あなたの寝顔を見ながら思ってしまう。

忘れていたんじゃない。

隠れていただけなんだ。

気づかないフリをしていただけなんだ。

 

便利なものに慣れすぎると、その便利なものが現れる前の水準に戻ることができない。

私はもう、カーナビなしでは運転できない。

だって地図なんて持ってないから。

カーナビに頼りすぎて、道を覚える気すらないから。

 

あなたをいつ起こそう。

まだすっぴんだから。

アウトレットに着く少し前に起こさないとメイクする時間がなくなっちゃう。

 

次の次の出口で高速を降りるらしい。

カーナビからカタコトの指示が発せられた。

 

そろそろあなたを起こそうか。

 

いびきをかいて寝ているあなたを起こそうか。

 

いつからあなたはいびきをかくようになったのだろう。

付き合ったはじめのころはいびきなんてかいてなかったのに。

 

いつからデートをしなくなったのだろう。

週に一回はしていたのに。

 

いつからすっぴんを恥ずかしいと思わなくなったのだろう。

なかなか見せてくれなかったのに。

 

まもなく目的地周辺です。

カタコトの言葉が聞こえてきた。

 

私はその声を真似して言った。

 

まもなく目的地周辺です、と。

 

同じ声で続ける。

 

こんなはずじゃなかった、と。