ひびろぐ

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

自分の声を自分が聞くとこんな声だっけと思う。

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知人に、先日仲間内で集まったときの動画を見せた。

知人は予定が合わずに来ることができなかったから。

 

みんな変わってないわね。

知人は微笑みながら動画を観る。

 

でも、どこか元気がないように見えた。

 

何かあったの?

私は知人に訊いた。

 

知人は少し黙り込む。

動画の中から笑い声が広がる。

 

なんか自分の声をこうやって聞くと変な感じしない?自分の声ってこんなんだったっけ、って。

私は黙ったまま動画を見つめる知人に言う。

 

きっと何かあったのだろう。

それでも知人が言いたくなければそれでいい。

言いたくなったら言えばいい。

 

私はひとりで話す。

このときはこうで、とか、こいつがさあ、とか。

久しぶりに見るであろう仲間たちが楽しそうにしているのを見るだけで、少しは気が紛れるかもしれない。

 

あのね…。

知人が話しはじめた。

動画が終わると同時に。

 

妊娠したの…。

知人はうつむきながら、お腹を触りながら、言った。

 

えっ?

私は思わず声を出した。

言葉に深い意味はない。

ただ驚いただけだから。

 

知人には付き合っている人がいることは知っていた。

私とは面識がないが、存在は知っていた。

仲良くしていることも知っていた。

 

でも、ひとつだけ疑問が。

 

どうして知人はこんなにも暗い顔をしているのだろう。

いくつか想像できることはあるが、それは想像でしかない。

 

私さ、バツイチでしょ?

知人は静かな声で続けた。

 

この要因は想像していたひとつだった。

それでも今時バツイチなんて珍しくもなんともないし、実際知人は今独身だし。

それなりの理由があって、それなりの考えがあって、離婚しているはず。

前夫とのあいだに授かった子供がひとり。

その子は前夫が親権を持っているはず。

 

バツイチなんて珍しくもなんともないでしょ。

私は答える。

 

でも、向こうもバツイチだし。

知人が言う。

 

知ってるよ。でも、向こうも子供いなかったでしょ?

うん。

何か問題あるの?

……。

うれしくないの?

うれしいよ。

じゃあ…。

でもさ、何か言いにくいんだよね。

言いにくい?

うん。だって、お互いバツイチで、私は手元にはいないけど子供がいて、向こうに子供はいないけど、やっぱりバツイチで…。なんかさあ、いいのかなって。このこと言ったらみんなどう思うのかなって…。

知人とのやりとりのあいだ、知人は一度も笑うことなく暗く沈んだ声と顔のまま。

 

そんなこと気にする必要ないでしょ。あなたはどうなの?

私は知人に問う。

 

えっ?

知人が私を見た。

 

あなたはどう思ってるの?あなたはうれしいの?

私は知人を見つめる。

 

……うれしいよ。

知人は小さく笑った。

 

じゃあ、いいじゃん。誰がなんと言おうと、あなたがうれしいなら、あなたが幸せなら、私はそれを全力で祝福する。

私は大きく笑った。

 

…ありがとう。

知人も大きく笑った。

 

誰の声だかわからない声より、誰だかわかる声を。

誰だかわかる声より、自分の声を。

 

あなたがうれしいのなら、他の誰かの声を気にする必要はない。

あなたが自分で幸せだと思うなら、それは誰が何と言おうが、幸せ、なのだ。

 

きっとみんな同じ気持ちだよ。

私は再び動画を開く。

動画からはいくつもの笑い声が重なっている。

 

相変わらず、私の声は変なまま。

 

早くみんなに会いたいな。

知人は笑ったまま動画を見つめた。