手のひらブログ【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

ちょうどいい言葉を探していく。

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小さな明かりにアサミが照らされている。

 

目悪くなるよ。

サヤはアサミに言う。

 

この方が集中できるの。

アサミはサヤの方を見ることなく返し、シャーペンで何か書き込む。

 

毎日、毎日。よく飽きないね。

サヤはアサミの指先を覗き込む。

 

同じ問題ばかりだったら飽きるけど、違う問題だから。

アサミはシャーペンをこめかみに当て、カチカチ鳴らす。

 

いいよね、アサミは。夢中になるものがあって。

サヤはスマホを取り出し、触りはじめる。

 

夢中になるもの、って言い方はどうなのかな。ただの暇つぶし。ただのクロスワードだよ。

アサミは思いついたようにまた何かを書き込んだ。

 

テーブルの横に置いた小さなライトの明かりだけで、毎日アサミはクロスワードをやる。

楽しいのか、楽しくないのか。

アサミ自身もよくわかっていないが、やらずにはいられない。

 

サヤはスマホをずっと触っては、独り言をつぶやいたり舌打ちをしたり。

スマホの明かりが絶えることはない。

 

私さぁ、今日会社でね…。

サヤはため息と一緒に愚痴を吐き出しはじめた。

 

アサミはクロスワードをやりながら、サヤの言葉に相槌を打ち、言葉を発する。

 

サヤは仕事や彼氏の話をずっとする。

ほとんどが愚痴だ。

 

アサミは何度か聞いたことのある話でも、サヤの話を最後まで聞き、相槌を打って言葉を返す。

クロスワードをやりながら。

 

いいよね、アサミは。夢中になるものがあって。

サヤの話は一周して戻った。

 

サヤには彼氏がいるじゃない。

アサミは静かに笑う。

 

いるけど。もう夢中じゃない。

口を尖らせながらサヤは言う。

 

ハハッ。

アサミはシャーペンを置いた。

 

できたっ!

アサミは大きく伸びをする。

 

アサミの目はキラキラしていていいね。

サヤはアサミの顔を覗き込む。

 

えっ?そう?まあ、ここに小さなライトがあるからね。

アサミはまた笑ってみせる。

 

すぐに強がるんだから、アサミは。

サヤも笑う。

 

サヤの目も、十分キラキラしているよ。

今度はアサミがサヤの顔を覗き込む。

 

えっ?そう?まあ、ここにスマホがあるからね。

サヤはアサミを真似て言う。

 

フフッ。

ふたりして笑う。

 

大丈夫だよ、サヤ。どこにだって明かりはあるから。明かりがないのは外が明るい時だけ。だからずっと明かりの下で生きていける。私の目も、サヤの目も。ずっとキラキラしていられるよ。どんなときだって。

 

アサミは言葉を選ぶように話す。

クロスワードをやっているかのように。

 

アサミとサヤは、またふたりして笑う。

 

サヤはスマホの連絡先を開き、アサミはクロスワードの次のページを開く。