手のひらブログ【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

言の葉の表と裏。

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ひとりにして。

シンはコウにそう告げる。

 

シンは涙を流し、からだを小さく震わせている。

床に直接座り込み、頭を抱え込んだまま。

 

でも…。

コウはシンをほっとけない。

 

滅多に泣くことのないシンが泣いている。

コウにとっては大事件だ。

 

お願い、ひとりにして。

シンは震える声で言う。

 

コウはシンに何が起こったのか知りたい。

でも、それを知るのは今ではない。

 

そう思い、わかった、と言って部屋を出ようとする。

 

すると、シンはさらに大きな声で泣きはじめた。

コウは思わず振り返る。

 

本当に大丈夫?

コウはしゃがみ込み、シンの背中をゆっくりとさする。

 

ひとりにして。

シンは背中を揺らし、泣きながら言う。

 

コウはシンの背中から手を離し、立ち上がってシンを見る。

しばらくシンを見つめたあと、コウはドアの方へと向かった。

 

コウがドアに近づくほど。

シンから離れていくほど。

シンの泣き声は大きくなる。

 

コウがその度立ち止まり、シンに近づくと泣き声は小さくなる。

近づきすぎるとシンが、ひとりにして、と呟く。

 

何度かそれを繰り返す。

コウは心の中で、これってもしかして、と思う。

 

シンは一度もコウの方を見ない。

頭を抱えてずっと泣いている。

 

埒が明かないので、コウは今度こそとドアの方へと向かう。

やはり、シンの泣き声は大きくなる。

 

やっぱりこれって…。

コウの頭の中で考えがまとまる。

 

コウは再びドアの方へ向かう。

シンの泣き声が大きくなっても気にしないで。

 

ドアの前に立ち、ドアノブに手をかける。

わざと、カチャ、と大きめの音を立てる。

部屋から出たふりをして、そのままドアを閉めた。

 

するとシンは、ドアの方へ、音のする方へ、顔を上げた。

 

やっぱり。

コウは笑いをこらえる。

 

シンはコウが部屋から出ていないことを確認すると、また頭を抱え込んだ。

 

コウはゆっくりとシンの方へと向かう。

 

一度だけシンの隣へ座って、背中をゆっくりさする。

 

ひとりにして。

シンはまだ言う。

 

わかったよ。

コウはそう言うと、シンから手を離す。

そのまま少し離れたところに座る。

何も言わずに、何もせずに。

シンが泣き止むまで少し離れたところに、ただ座る。

 

シンをひとりにしないように。