手のひらブログ【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

一寸先も前も闇。

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歩いているとやたらと視線を感じる。

 

いつもはこんなことないのに。

 

町行く人に見られることも、ましてや振り返られることなんて。

今まで一度も経験したことがない。

 

なのに、今日は、なぜだか、やたらと視線を感じる。

 

歩くたびに視線の量は増えていく。

視線を感じた方に顔を向けると、誰もがもの凄いスピードで顔を逸らす。

 

誰とも目が合わない。

こんなに視線を感じるのに。

合ったとしても、ほんの一瞬。

 

何がどうなっているのか。

身に覚えがまったくない。

 

歩く速度も視線の量も増える。

いよいよ不安になってきた。

 

奇妙な昼下がり。

 

駐車場の横を通りがかる。

いくつも停まっている車へと近寄る。

 

顔に何かついているのかもしれない。

そう思い、サイドミラーへと顔を近づける。

 

口のまわりに何かついている。

 

さっき食べた昼食の焼きそばだ。

 

ソースがべったり。

これか。

思わず笑うと、歯には青のりがたっぷり。

 

恥ずかしいという思いより、謎が解けたすっきり感が勝る。

 

ハンカチもティッシュも持っていないから、服の袖で拭く。

汚れちゃうけど、そんなこと言っていられない。

 

入念に何度も拭き、サイドミラーに向かって歯をむき出す。

 

きれいにとれた。

これでもう見られることはない。

 

再び、歩きはじめる。

 

ん?

 

視線が止まらない。

視線集中が止まらない。

 

ソースも青のりもきれいに拭き取ったのに。

 

まわりを見渡しても誰とも目が合わない。

合うのは、ほんの一瞬。

 

なにか用ですか?

そう言って何人かに声をかけようとするが、近づくと誰もが逃げる。

 

何が起こったのか。

何も見覚えがない。

 

仕方なく歩く。

家に帰ろう。

何かが変だ。

 

スピード上げて歩く。

タクシーは停まってくれないから。

 

大きなガラス張りのビルの前を通った。

 

まだソースや青のりが残っているのか。

そう思って、ガラスに目をやる。

 

全身が映りこんでいる。

 

真っ赤な血を浴びた私が。

 

えっ?

何も理解できない。

 

私のからだはどこも痛くない。

この血は、私の血ではない。

 

返り血を浴びているのか。

首から下が、真っ赤に染まっている。

 

どうして気づかなかったのか。

いや、そうじゃない。

どうして私が血を浴びているのか。

 

何もわからない。

何も見覚えがない。

 

ただ立ち尽くすだけの私。

 

遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえてきた。

騒がしい町の中でも異質な音。

 

私は何も知らない。

私は何もやっていない。

私は何もわからない。

 

サイレンはだんだん大きくなる。

 

奇妙な昼下がり。

 

危険はどこからやってくるのか、わからない。